剣道修行


ただ学べ

剣道修行の本質は、ただ学べである。
剣道修行の本質は、勝ち負けではない。
勝ち負けは結果である。
勝って学び、負けて学ぶ。
それが修行である。
修行の本懐は、学ぶ事である。

修行の道理を結果に求めるな。
志にこそ求めよ。
学びに終わりはない。
ただひたすらに学ぶ事が修行の本望なのである。

勝つことだけが修行ではない。
負けてこそ学ぶ事がある。
逆境こそ鍛錬の時。
悔しくて涙が出る時こそ、学ぶ意義が問われる。
泣け。泣いて悟れ。
なぜ、修行するかを・・・。

勝って奢る時、学ぶ意義か失われる。
強くなることが目的というなら、
何に対して強くなろうとするのか。
問え。

勝って神に祈り。
負けて神に感謝する。

ただひたすらに、ひたすらに、己と対峙せよ。
己にこそ克て。
己に克ちて礼に復す。

故に、道は、礼に始まり礼に終わる。

家内が剣道の昇段試験に落ちた。
それもまた良しとしよう。
昇段試験に落ちて家内に泣かれた。
それも又修行。
昇段試験に落ちて家内もかなり落ち込んだ。
平常心こそ学べ。
実技は、充分だったのに、落ちるはずのない学科で落ちた。
それも又、学科を軽んじた結果。
学科を学べ。
学科の意義に気づき、学科の難しさを学んだ。
学科に落ちなければ、何でもないこと。
落ちたからこそ、学科の意義を知る事ができる。
己の非力に学べ。不甲斐なさに学べ。
油断に学べ。
隙に学べ。
無力さを学べ。
弱さを学べ。
家内は、いろんな人から励ましを受けた。
慰められた。
人の心を学べ。
身を捨てることを学べ。
落ちて挫折感を学んだ。
人の痛みを学べ。
苦しみ、悩む事をを学べ。
一人では生きられないことを、
一人ではないことを学べ。
人の情けを学べ。
学べ。学べ。

勝つことから学ぶことは少ない。負けてこそ学ぶ事が多い。
負けたて逃げ出せば、学ぶ機会は失われる。
負けて逃げ出せば、全てを失う。
自信すらなくなる。
己の誇りも気力も奪いさられる。
残されるのは敗北感だけである。
それでは、何のための剣道修行だったのか解らなくなる。
負けることが問題なのではない。
負けて何を学ぶかが大切なのだ。
負けて、負けて、それでもどん底から這い上がった時、人は何かを掴む。
それが、真の学び。
己に克って前を見たときこそ、真の修行の意義を悟る事ができる。
それこそが学び。
剣道修行は、学ぶ事に本義がある。
学べ、学べ。

家内は、四十近くなってから剣道をはじめた。
所謂、四十の手習いである。
はじめは子供のために、剣道を始めた。
ただ、今は、修行せんが為に剣道を続ける。
ならば、大会に出て優勝することが目的なのでもなく。
他人に勝つことが目的なのでもなく。
段位を求めることでもないはず。
何を求め、何を捜して剣道に勤しむ。
そこにこそ、志すところがある。
生きる道がある。
道を求めて剣道を志す。
そして、最後は勝て。
負けることから学んでも負けることを学んではいけない。
それでは、人生の敗残者である。
負けてこそ勝て。

勝つことを学べ。
勝つことの意味を学べ。
何に勝つのかを学べ。
学べ。学べ。
生きて生き抜くことを学べ。
生きることを学べ。

裂帛の気合いで撃ち込むのだ。
勝負の境を越えて、魂魄を籠めて一撃を加えよ。

ただ、ただ、この一瞬に全身全霊を籠めて打突する。

なぜ、剣道を続けるのか。
強くなるためか。昇段するためか。
強くなったところで、昇段するにしても、
限りがある。
強くなったところで何になる。
第一何に対して強くなろうとするのか。
肉体的な強くなるのか。
精神的に強くなるのか。

人は老い、肉体は衰える。
その後は何もない。
無となる。
無となるために、剣道修行に勤しむ。

生きていることを知るため・・・。
生者の息づかいを知るために・・・。

現実から逃れるためではない。
己の弱さから目を背けるためでもない。
この世の醜さと対峙し、斬り払うために・・・。
己の弱さを直視し、克服するために、
ただひすらに真っ直ぐに打つ。

ただただ、無念無想。
無心に、面を撃て。
その時、道は拓ける。
生きるとは気魄なり。

ならば、己の限界を知るために続けるのか。
限界を知ったところで何になる。

なぜ、最高位が空席にするのか。
それは、無限の極みだからである。

無限を断て。
決して断ぜよ。
決断せよ。
一意専心。一筋の道。
虚空を打て。

人間、誰しも、最後には、神の前に一人立たされる。
どんな英雄、豪傑、富豪、権勢を誇る者、貧しき者、賢者、愚者、凡夫、俗人、匹夫も皆同じ。
ただ、一人、何物も身に纏う事を許されず神の前に立たされる。
どんなに偉大に見える人生もどんなにちっぽけに見える人生も神の前では皆同じ。それが平等であり。平等とはそれ以外にない。
ただ、問われるのは、己に忠実に生きたか。
己に疚しいところはないか。
己が信じたことに忠実に生きたか。
己に誠実であったか。
そして、ひたすらに生きようとしたか。
神に学べ。
感謝することを学べ。
信じる事を学べ。

勝負を越えて、己の持てる力を出し切った時、戦いは終わる。

戦い終わって、神前に額ずく。
そして、静かに、道を究める意義を自らに問う。
道に学べることをただ感謝。ただ感謝し。
良き相手に巡り会ったことに感謝し、
良き師に学べることに感謝し、感謝する。

勝ちて、神に祈り、負けて、神に感謝す。
そして、神に、向かって一礼する。

究極の剣道修行は、神と対峙する事である。


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